「タンパク質,体重1kgあたり〇〇g必要」の嘘
「体重×タンパク質量」という常識は間違っている
──除脂肪体重(LBM)を基準にすべき科学的理由
はじめに:常識への疑問
「体重1kgあたりタンパク質〇〇g」。
筋トレ本やネット記事で必ず目にするこの計算式は、一見シンプルで便利に思えます。
しかし、この方法には致命的な欠陥があります。
最大の問題は、体重の中には**タンパク質をほとんど必要としない体脂肪”まで含まれていることです。
体脂肪率10%のアスリートと体脂肪率30%の一般人が同じ70kgでも、筋肉量や代謝組織量は全く異なります。
代謝的に活発な組織は筋肉や内臓といった「除脂肪体重(LBM)」に集中しており、そこがタンパク質需要の中心です。
にもかかわらず、両者が同じ式で計算された同じタンパク質量を推奨されてしまうのは、明らかに非合理です。
このブログでは正しいタンパク質摂取量の計算方法を含めて、この問題に対して科学的に説明します。
ぜひ最後までお読みください。
そもそも「体重基準」が間違っている理由
そもそも体重を基準にタンパク質の必要量を決めること自体に問題があります。
なぜなら体重が同じでも体脂肪率や筋肉量には大きな個体差があるからです。
体脂肪は代謝活動が低く、タンパク質の消費量はごくわずかです。
一方、筋肉や内臓、骨などのLBMは常に合成と分解を繰り返し、修復・維持のために大量のアミノ酸を必要とします。
体脂肪率や筋肉量などの体組成を無視して体重のみで計算すると、体脂肪率が高い人では必要量を大幅に上回るタンパク質量の数値が出てしまい、摂取量が過剰になりがちです。
逆に、筋肉量が多い人では必要量を下回り、筋肉維持や発達を妨げる恐れがあります。
つまり「体重基準」は、精度よりも計算の簡単さを優先した便宜的な方法でしかなく、科学的根拠は薄いのです。
では何を基準にすべきか?
ここまで読んで「では体重ではなく、何を基準にすればいいのか?」という疑問が浮かんだはずです。
その答えが、**除脂肪体重(Lean Body Mass: LBM)**です。
LBMとは何か
LBMは、体重から体脂肪量を差し引いた値です。
筋肉、骨、内臓、血液、水分など、代謝活動が盛んな組織すべてを含むのが特徴です。
体脂肪にはこの役割がほぼないため、タンパク質必要量を計算する際に含めるべきではありません。
言い換えれば、LBMによって初めてタンパク質が実際に使われ、消費される“現実的な”総量がわかるのです。
この視点に立てば、「体重基準」で計算することがどれほど非効率かが明確になります。
LBMを基準にすれば、筋肉量や代謝活動量を反映した、より精密な設計が可能になります。
LBMを基準にする必然性
科学的研究は、このアプローチの優位性を一貫して裏付けています。
オランダの比較研究では、タンパク質必要量を「実測体重」「調整後体重」「LBM基準」で計算した結果、LBM基準が最も正確な予測を示しました。
特に体脂肪率が高い人では、実測体重基準が必要量を大幅に過大評価してしまうことが確認されています。
また、Schoenfeld & Aragon(2018)のレビューでは、タンパク質摂取による筋肥大効果は筋トレ経験とLBM量に強く依存すると報告されています。
LBMが多いほど、摂取したタンパク質を効率よく合成に回すことができるのです。
さらに、Longlandら(2016)の減量期を対象にした研究では、LBMあたり2.4gのタンパク質を摂取したグループが、筋肉量を維持しつつ脂肪を大きく減らすことに成功しました。
対照的に1.2g/LBMでは筋肉減少が顕著でした。この結果は、減量中こそLBM基準での高め設定が有効であることを示しています。
LBM基準の計算方法と実践
では、自分のLBMを求めて必要なタンパク質量を計算してみましょう。
まず体脂肪率を計測します(体組成計や皮下脂肪厚計などを使用)。
次に以下の式でLBMを算出します。
LBM(kg)= 体重(kg) × (1 - 体脂肪率)
注意点
体脂肪率の単位は「%」ではなく小数で入れる必要があります。
例:体脂肪率15% → 0.15
そのLBMに目的別の係数を掛けます。
筋肥大:1.5〜2.5g/LBM
減量:2.0〜3.0g/LBM
アスリート:1.8〜2.5g/LBM
例:体重70kg・体脂肪率15% → LBM=59.5kg
筋肥大目的(2.0g/LBM)なら 59.5×2.0=119g/日 となります。
なぜ体重基準が広まったのか
過去の栄養学では、体脂肪率や筋肉量を日常的に測定する技術や機器が一般的ではありませんでした。
そのため、誰でも計算できる「体重基準」が使われ、やがて定着していきました。
さらに、フィットネス雑誌やウェブ記事は短時間で理解できる情報を求められ、細かな体組成データを扱うよりも「体重×〇g」という簡易式の方が扱いやすかったのです。
この便宜的な目安が繰り返し引用されるうちに、“科学的真実”のように誤認されていったのです。
しかし、測定技術が普及し、研究が進んだ現代では、この前提を見直すべき時代に入っています。
まとめ
「体重基準」は簡単で分かりやすい一方で、科学的には不正確です。
代謝活動の中心となるLBMを基準にすれば、筋肥大、減量、競技パフォーマンスのすべてにおいて精度の高い栄養設計が可能になります。
まずは体脂肪率を測定し、LBMを算出すること。
そして目的に合わせて必要なタンパク質量を計算すること。
このプロセスこそが、現代の科学に基づく正しいアプローチです。
ぜひ今回のブログを活用し、本当に必要なタンパク質量を摂取し、あなたの目標達成に活かしてください!